『おはようございます』そう言って、深く頭を下げました。早朝、新幹線の中の出来事です。京都に着くまで、あの方はどなただったかしらと……。確かにどこかで、会ったことがあるんです。挨拶をしたものの、名前を思い出すことができないいんです。胸の辺りが悶々として……、誰もが経験していますよね。私は会ったとたん、頭を下げたんです。相手の方のご挨拶は、足をキチンと揃え、腰からキュッと折れるような姿の美しさ。そして、さわやかな『おはようございます』の言葉でした。

私たちの祖先は、農耕民族です。畦道ですれ違ったら深く頭を下げてお辞儀をしたんです。頭は急所ですもの、また、持っている農機具は武器になるんです。自分の頭を相手の目前に差し出して、『あなたを信頼しています』という気持ちを態度で表したんです。街角で、いつまでもお辞儀が終わらない女性たちを見かけます。そーっと頭を上げてみたら、相手はまだ頭を下げていますね。すると『私はあなたを信頼しているんです！あなたを傷付けようなんてこれっぽちも思ってもいないんですよ！』と心の中で叫びながら、もう一度、頭を下げます。一度、お互いのタイミングが狂ってしまうと、シーソーのようにいつまでたっても、挨拶は終わりません。

きれいなお辞儀の仕方を練習してみましょう。ツーンとシャキッと背筋を伸ばし、頭は深く下げてください。そして、ゆっくりと体を起こしながら、相手に気付かれぬようそーっと見てみてください。まだ、相手の頭が下がっているようでしたら、ゆっくりと体を起こしながら、相手と同時に体を起こすように調整します。

京都駅に降り立って、新幹線のあの方を思い出しました。売れっ子の男優さんだったんです。テレビ画面で認識していた私の脳は、「知っている人」そして「挨拶をすること」と指令を出したんです。きっと、私のこと誰だかわからずにご挨拶をしてくださったんですね。見ず知らずのオバサンにも丁寧な挨拶をしてくださったあの男優さんの大ファンになりました。『おはようございます』の姿に惚れちゃいました。
どこかで誰かが、見ています。毎日の挨拶、こんなにも大事なことと改めて学びました。